音楽とローカル>DJにおける選曲の極意
本稿タイトルは編集部にて付けさせていただきました。
遅い梅雨明けから一気に猛暑へ、日々発表される東京の感染者数推移をかぶりつきで追っていたらいつの間にか前回の更新から2ヶ月以上も経っていました。私は元気です。
前回まで私のDJへと繋がる音楽遍歴と時代ごとの音盤・メディアについて書いてきたこの連載ですが、今回は編集部からの提案もあり私のmixcloudで公開している「Live Mix @ CATBOYS ”Kansyo-kai” Shibuya Roots, on June 29, 2018」について解説をし、「音盤をコントロールする行為」について掘り下げてみたい。自分の行為について自ら解説することやLive録音ゆえのラフさに気恥ずかしさがあり躊躇していた部分もあるが、既に2018年から公開していることや、失敗なども含め解説を行うことで読者に何かしらの発見や学びがあればと思った次第(俺の屍を越えてゆけ)。
※mixcloud上にあるLive Mix @ CATBOYS ”Kansyo-kai”〜を貼っておきます。見れない方はブラウザをリロードしてください。
「Live Mix @ CATBOYS ”Kansyo-kai” Shibuya Roots, on June 29, 2018」は、渋谷Rootsで行われたイベント「CAT BOYS鑑賞会」のオープンから、バンド「CAT BOYS」とフィーチャリングアクト「AHH! FOLLY JET」「asuka ando」「BTB特攻」によるLIVE演奏前の時間帯で行ったDJである。一口にDJといっても様々な音楽ジャンルや場所性それぞれに併せた役割や楽しみ方があることはこの連載を通じて語ってきたが、その中でもこういったLIVE演奏を目玉に据えたパーティーは、お客さんを含め会場にいる面々は、ほぼ出演者のパフォーマンスを楽しみにその場に集っており、それだけでパーティーに対する期待値も高いと言える。そんな期待感をより高めたりLIVE後の高揚感をキープする為の選曲は、DJとしてやり甲斐を感じるシチュエーションのひとつだ。場の高揚感に煽られたお客さんが少しだけ羽目を外したり、自分たちなりの遊び方を見つけはじめた瞬間などもこういった多要素が混在する現場から生まれる事が多く、パーティーのひとつの醍醐味であると言える。
レコードや音源の準備
要する時間や労力の大小は有れど、料理や旅行もそうであるようにDJという行為にも毎度例外なく必要なのが「準備」というやつ。美味しい冷やし中華を作るためにはハムや卵、トマトやキュウリなどの食材を買い集め、食べやすい大きさに切り揃え具材を冷蔵庫で冷やしておく必要があり、その仕込みがあってこそ食事のタイミングを逆算し調理を始めることができる。DJにおける準備は日々のレコード屋通いやサブスクなどネットを利用した音源のチェック~収集からはじまる。自分の場合は音源のフォーマットがレコード・CD・データ(USBメモリに音源データを入れて利用することが多い)など多岐にわたる為、スケジュール確定後はレコードプレイヤーやCDJ、DJミキサーなど会場に置いてある機材を確認し再生できる音源の種類をまず確定させる。料理で言えば調理器具の確認といえる。そのうえでイベントの方向性やジャンル、ロケーションや季節などを考慮し当日のテーマをなんとなく決めていく流れである。こういうと、さながらコース料理を考案する一流シェフのようで、先ほどなんで冷やし中華でそれを例えたのか、悔やまれる。気を取り直して、以下「CAT BOYS鑑賞会」におけるテーマ設定を思い出せる範囲でまとめてみた。
「CAT BOYS鑑賞会」選曲テーマ
・来るべき盛夏を期待させる
・演者に関連する楽曲をかけることでLiveへの期待を高める
・「Laid back レイドバック」
こうして言葉にしてみると、やはり、とても、恥ずかしい。このテーマは半紙に毛筆で書きしたためたものでも、ホワイトボードにマインドマップ的に書き示したものでもなく、あくまで、敢えて、”言葉にしてみた”ものである。誤解なきよう。
「夏」をイメージする音楽
個人的に連想する古いドラムマシーンの音色や西海岸・ギャンクスタミュージックなどをイメージ。「演者の曲」を選曲することについては、意識しすぎるとDJの流れを損なう恐れも有る為、楽曲をレコードバックに仕込みつつ現場の判断で選曲しようと思案(結果全ての演者に関わる楽曲を気持ちよく選曲できたのでエライ!)。何かのジャンルに特化したスタイルのDJも多いが、個人的には新旧問わず、今夢中になっているものと、パーティーで望まれているであろうものを折衷させて普段からDJをしており、今回については改めてCAT BOYSの魅力の一つであるソウル〜ファンクミュージックが有する「レイドバック」の魅力を、例えばCBのバンドサウンドから連想されるMetersなどの70’sファンクミュージック以外で構成してみようという試みがあった(と思う)。またこの時期は、自分が10代を過ごした90年代の楽曲や、有名なアーティストの楽曲をあえて選曲しフロアで試していくような志向があり、結果このような選曲になった部分も。
レイドバック考
「レイドバック」というワードを普段から意識して音楽を聴いている人がどれほどいるのかは皆目見当がつかないが、個人的にはこの10年ほど音楽を聴く時やDJをする上でとても意識しているフレーズだ。「Laid back = くつろいだ、リラックスした」という意味であり、音楽的にはメトロノームのような規則正しいリズムに対して、お尻の方を意識するいわゆる「モタる」リズムをさして使われる。(改めてネットでチョチョいと調べて見たところオールマン・ブラザーズ・バンドのグレッグ・オールマンの73年ソロ・アルバム『Laid Back』が音楽用語としての語源とされているらしい。知らなかった。)
10年ほど前からUSのR&B~HIP HOPや特にダブステップを中心とした1小節を「1,2,3,4,5,6,7,8」と区切った場合において、「1」「3」及び「5」「7」拍目を強調したデジタルダンスミュージックが興隆し自分も例にもれず収集~選曲していくなか、元々好きだった70’sのソウルミュージックに覚える「レイドバック」感を改めて意識しはじめた頃があった。そこには最新のダンスミュージックと、オーセンティックなレイドバックミュージックを「3」「7」拍を意識してDJミックスしたいというアイデア・秘かなる野心もあった。(このアイデアについては連載1回目で紹介して頂いた「CITY OH BABY Extra Mix vol.01」の29分くらいからのミックスが意識的です)
そんな時期と前後してバンド「思い出野郎Aチーム」と知り合い、彼らの代表曲であり珠玉のメロウ・ソウルナンバー「Time is over」を聴き、やがてリリースされた7inchを様々な現場で選曲していた流れや、「asuka ando」の「夢で逢いましょう」という楽曲に出会いこちらも様々な現場で選曲していく中、それら楽曲の前後をつないでいくような流れで「レイドバック」を感じるソウルやレゲエミュージックを自分のレコード棚やレコード屋で探索し、選曲に反映していったのだったなと今更ながら思い返している。
「CAT BOYS鑑賞会」 当日の様子
選曲について
では実際の選曲について、楽曲やそこでの意図や狙い、イメージ、いわんや反省点についても解説していきたいと思う。(カッコはリリース年)
1、Mr. White / Khruangbin(2015)

ここ数年レイドバックとサイケデリックを特に意識させるテキサス州ヒューストン出身のバンドKhruangbin。再発リリースされたLPアルバムの鳴りを確かめたく、まず試しに選曲。
2、Boa / Quarteto Forma(1971)

中古で買った70年代ブラジリアン・ソフトロック楽曲の再発盤をこちらも試しがけ。
3、ある晴れた日に / 寺内タケシとバニーズ(1967)

エレキ・GSバンド寺内タケシとバニーズによる歌劇蝶々夫人の「ある晴れた日に」カバー楽曲。サーフロックのエレキギターには聴覚を幅広く刺激する効果があると思っており、ここで一回”耳を広げたい”というイメージ。
4、Summer / 井上陽水(1976)

井上陽水5枚目のアルバム「招待状のないショー」収録楽曲の7inchサンプル版が手に入ったので選曲。”耳を広げた”後、音数の少ない楽曲で収縮の「縮」をさせたイメージ。波音のSEもよく響いていた印象。また元々Sly & The Familystoneの「Fresh」やShugie Otis「Inspiration Information」など古いドラムマシンをフィーチャーした録音物が好きで、そういった音色に浮遊感と清涼感を覚える。
5、Everybody Is A Star / Shunsuke Ono(2015)

前述の好きな要素が全て詰め込まれたShunsuke OnoさんのSly Stone カバーアルバム「Electro Voice Sings Sly Stone」より。ワウワウやロボ声の音色には、ボンネットに置いたカセットテープが溶解していくような夏のイメージも覚える。
6、指切り / 「AHH! FOLLY JET(2017)

当日の演者「AHH! FOLLY JET」高井康生さんによる大滝詠一カバー。原曲は冬の歌詞だが、ラテンパーカッションやグロッケン(?)風音色が醸すエキゾチックな雰囲気に、時空軸の違う東京の夏に迷い込んだような気分に。迷い込みたくて選曲。
7、Summer Madness / 井の頭レンジャーズ(2018)

Kool & The GangによるHIPHOP大定番ネタの井の頭レンジャーズカバー楽曲。PARKTONE RCORDSより提供頂いたサンプル版をプレイ。そろそろグルーヴを組み立てていきたい意図と、前述の”溶解”感をさらに進行させるイメージ。
8、I’d Rather Fuck You / BTB(2014)

当日の演者・BTB特攻さんによるN.W.A.のEazy-E による「I’d Rather Fuck You」のカバー楽曲。トークボックスによって原曲の”ネチッコサ”をより高めた楽曲と、前曲より楽曲のBPM(テンポ)を下げることにより”溶解”感をさらに進行させる試み。G=ギャングスタものに漂うシーサイド感は人類共通の感覚なのだろうか。
9、I Like Your Big Azz / Dam Funk(1992)

前曲の”G”感を ”Gファンク” 楽曲で引継ぐ。「I LIKE YOUR BIG AZZ, GIRL (オマエの大きな尻が好きだぜ)」という日本語ならズッコけてしまうくらいバカバカしいシングルフレーズで引っ張る、性対象へのやりきれない悲哀がたまらない楽曲。ここ辺りからマイナーコードを中心とした”悲哀”を覚える楽曲を意識的に続けてDOPEな空気を創出。
10、Master Blaster / E.Live(2017)

そろそろ気分が乗ってきたのでDJらしくBPMをそろえたミックスを試みる。「BPMをそろえる」「音色の近い、同じ括りのジャンルで選曲する」と音楽に乗りやすい=ダンスがしやすいという安直だがあながち間違いでない考えを元に。
11、Ain’t Gonna Last / Freakway(2016)

BPMをそろえたミックスをさらに続け、Live前にお客さんの腰を少しずクネらせていきたいと意図したが「最初の出音が大きい」「リズムがあわせ切れていない」、悪い例の二つ星。旧友でもあるミネソタデュオFreakwayによる素晴らしいミディアムブギー楽曲をうまくプレイできず、今も残念な気持ちだ。
12、Miss Apricot / asuka ando(2018)

当日の演者・asuka andoさんのセカンドアルバム「あまいひとくち」収録の90’s R&Bレゲエ風なクールナンバー。彼女の最新シングル曲は常にレコードバックに入れている私ですが、近年の90’s リバイバルにもマッチするこの曲をアルバムからピックアップ。カットイン的DJミックスは前曲のフェードアウトが足りず、こちらも残念。
13、La Isla Bonita / Madonna(1986)

初期マドンナの”エキゾ・エロ”い名曲。邦題に添えられたタイトルの日本語訳「〜美しき島」という副題もなんだか意味深に感じる。「良い選曲は1曲1曲、頭から最後までプレイしても成立する」という私が信じるDJプレイの原理原則に立ち返り、スペイン語のエキゾチックな風合いから始まるイントロからしっかりとかけてみる。
14、渚・モデラート / 高中正義(1985)

”エロ・悲哀”感をより高めるべく、コーラスよりも饒舌な高中正義さんの泣きのギターで気恥ずかしさを覚えるほどエモーショナルな高まりを演出。前曲のフェードアウトから今曲のフェードインはとても丁寧なミックスで、いつもこの瞬間くらい集中力の高いDJをやるべきなのだ。
15、Give It Up, Turn It Loose (Welcome To The Ghetto” Hip-Hop Edit”) / En Vogue(1992)

”今夜はブギーバック”と同ネタとして有名な楽曲の、HIP HOP・R&B・レゲエがより渾然一体であった90年代前半に散見されるレゲエ風ラップ(ラガ)を盛り込んだremixバージョン。前曲で高めたエモさを、ラフなラップで濁しつつ、タイトなブレイクビーツに集約していくようなイメージ。
16、So Sick / Ne-Yo(2006)

前曲をターンテーブルの「STOP」ボタンで終了させ、すかさずNe-Yoによるヒップホップ・ソウル楽曲で前曲のグルーヴを継続。”悲哀”感も一回リセット。BPM110前後、ブレイクビーツで構成される楽曲はやはりDJとしてはミックスがしやすく、フロアもノリやすいものだなと。「実直にこういうミックスをすればいいのだ」と、いつも思っているのです。
17、The Fools / Cat Boys Feat. Luvraw(2016)

当日のメインアクト・CAT BOYSがLuvrawこと鶴岡龍さんをフィーチャーした、EL-MALOの名曲カバー楽曲。前曲までの割とタイトめなリズムを、生演奏によるレイドバック感が引き立つ楽曲へと改めてベクトルを変える試み。再度エモい方向に振りつつ、この辺からミックスのタイミング・展開を早めることで場を煽り、盛り上げていく意図も。当日の機材・DJミキサーの特性がここにきても掴み切れておらず、ミックス時のスクラッチ音やイントロ部分の音量が前曲と比較するとやや弱く、ここも残念。
18、Robot’s Return / Talc(2007)

TalcによるAOR風ロボ声楽曲。前曲をターンテーブルの「STOP」ボタンで終了させ、カットインで次曲をミックス。グルーヴや質感を引継ぎつつ、曲の転調などでもう一段エモさをあげるイメージ。
19、Bao Yi Bao / 陳 小春(2001)

香港の歌手、陳 小春・Jordan Chanによる00年代R&B楽曲。台湾でのDJ後だったのでまとめていた中国語圏楽曲ストックが手元にあり、前曲のコード感からミックスを思いつきトライ。前後の曲のリズムがしっかりと合っておらず、ややガタついていて残念だが開き直っていくしかない。
20、Africa / Weezer(2018)

SNSを通じたファンによるリクエストを受けリリースされた経緯を持つ、TOTOの大ヒット楽曲のWeezerによるカバー。個人的に90’sの一部オルタナティブロックバンドが有していたレイドバック感を再度探っていた時期だったので、リリース後すぐに飛びついた楽曲。ここまで何度か出しては引っ込めを繰り返してきた過剰なほどのエモさはここがピークのイメージ。ロックバンドよろしく、イントロのキック音が強いので「ドン!」と曲をミックスでき、気持ちが良い。
21、Bluebird / Helen Reddy(1975)

敬愛するLeon Russel作、Helen Reddy歌唱で日本においてヒットした楽曲。数分後に迫ったLIVEを見据え生音・ソウルミュージックの風合いある楽曲へ耳を慣らしていく意図。悲しい歌詞とは裏腹に、軽快なピアノイントロは気分を高揚させ開放的な気分に。なりますよね?
22、Memory Of Our Love / Danny Hathaway (2013)

2013年に突如発表されたダニー・ハサウェイの未発表音源。ベースラインが引っ張る前曲のグルーヴを引継ぎつつ、早めにミックスを展開。余談ですが私の33歳1月13日の誕生日に、ダニー・ハサウェイが33歳の1月13日に亡くなった事を知るという数奇な出来事が、数年前にありました。以降特に何も起こっていません。
23、I Think I’m Falling In Love / Leroy Hutson (1976)

こちらも前曲ニュー・ソウルの質感を引継ぎつつ、BPMを少し上げ高揚感を狙う。前曲のダニー・ハサウェイもリロイ・ハトソンもハスキーで落ち着いた歌声がソウルミュージックの高揚感をクールに内包している感じで改めて素晴らしく思う。高揚感の発露はLIVEの時間で。ふわっとしていて意図がよくわからないミックスはDJの終了時間が迫っている故。
24、Use Me (Live) / D’angello (2008)

98年のニューヨークLiveのブート盤。裏面はQuest Loveのアナウンス入り「Really Love」のアンリリースバージョン収録。Live開始の準備が整い始めたのでCAT BOYSの演奏に近しい質感の楽曲を。LIVE終了後1曲目にかけたIncognito「Don’t You Worry ‘Bout A Thing」と共にこの日絶対かけたかった楽曲。フェードアウトしてDJ終了。Live盤を選曲すると収録されている拍手や歓声に引っ張られ、実際に拍手や歓声をあげるお客さんが発生する副次的効果がしばしば確認でき、雰囲気や高揚感に素直な感性はとても良いなと思わせてくれる。
「どうですか?」
冒頭で触れたとおり今回の解説に着手するまでとても腰が重く、書き終えた今腰痛が悪化したようにも感じている(腰痛はストレスの影響が大きいのだという、サラリーマン時代の学び)。個人的には反省すべき箇所ばかりが目につきますが、いかがでしたでしょうか。DJのテクニカルな部分や楽曲の構造的な解説とは遠い、感覚的な説明に終始してしまったが、選曲の狙いや意図が伝われば幸い。一般社団法人日本DJ協会(知らない方は調べてみてね)が提供する「DJ検定」の受験には一つも役に立たない解説だと思うが、DJやそれに関係する様々な楽しみ方を掘り下げる一助となれば恥のかき甲斐もあるというもの(励ましのお便りまっています)。再び濃密に集える日を。

マイケルJフォクス
1979年生まれ。”Back to”の後DJを開始。オールラウンドミックスを基調としつつ現在進行形のベースミュージックやJ-POPなども盛り込んだ独自のDJスタイルで、都内を中心に場所やジャンルを選ばないボーダレスな活動を継続中。
《リンク:音楽メディアの変遷と、音盤をコントロールする行為について③》
《リンク:音楽メディアの変遷と、音盤をコントロールする行為について②》
《リンク:音楽メディアの変遷と、音盤をコントロールする行為について①》