cotonoha inc. 池の近くの本を作る会社。 コトノハ株式会社

静岡県のお茶どころ、掛川のアートイベントに出かけて

レポート:大石大介

スローライフ宣言、生涯学習都市宣言の町、掛川

「ゆっくり、ゆったり、心ゆたかに」を標榜するスローライフの掛川は、東海道53次の日本橋から数えて26番目の宿であり、東京・名古屋・京都・大阪の真ん中に位置する。

掛川の町で「原泉アートデイズ!」のチラシを見つけて、北部の原泉地区で開催されたイベントに出かけてきた。

作品は原泉地区の数カ所に展示されていて、地図の真ん中には日帰り温泉があった!

あれっ! 風呂上がりに自然を満喫しながらアートを楽しめるのか!?

しかも、温泉!!

これはもう、本格的に楽しみつくすしかないと思った。

ウェルカムドリンクは「日本茶きみくら」で!

お茶どころ掛川に到着して、まずはウェルカムドリンク的に静岡のカフェで大人気の創業90年「日本茶きみくら」本店に行ってきた。

「日本茶きみくら」は今年、「技術的にどれだけ素晴らしい茶師が静岡にいるかということを世界に知ってもらいたい」と羽田空港に「日本茶きみくら」エアポートガーデン店をオープンした。

今回はトンネルを再利用したワインセラーでひと夏熟成させた秋の『きみくら」を代表する深蒸し煎茶、季節限定「秘壷蔵」(ひこぞう)体験してきた。

掛川では一般的な煎茶よりも2倍から3倍長く蒸す「深蒸し製法」でのお茶づくりが主流となっている。

深蒸し煎茶を低温貯蔵でひと夏じっくりと寝かせ、新茶の青々しい新鮮さとはまた違う、まろやかでコクのある芳醇なお茶に生まれ変わったものが「秘壷蔵」だ。

コクと甘みは秋に極まるという。

熟成茶の歴史は、お茶通として知られた徳川家康公が春に摘んだ一番茶を茶壷に入れて井川上流の山奥に運ばせ夏の間冷涼な高地で大切に保管し、晩秋になるとそのお茶を駿府城へと運ばせ、その熟成したお茶の深い味わいを愛したといわれている。

時の移ろいを経て旨みが凝縮された香りを楽しんでから、濃い緑色の色合いにもこっくりとした秋の模様を見て、いよいよ秘壷蔵を口に含むと濃厚な旨みに、とろりとした甘みを感じた。

ふと目を上げると、大きな窓から望む日本庭園が静寂の美しさで全身を包み込み、まるで茶の味わいが視界にも拡がったかのようだった。

秋の光に輝く多彩な緑の木々がゆるやかに揺れ、自然と調和しながらも、人の手による美意識が随所に感じられる。

まさに日本茶「秘壷蔵」と、きみくら日本庭園の相乗効果が生み出す至福の時だった。

南国のホテル到着時、ビーチを眺めながらのココナッツジュースもいいが、秘壷蔵と日本庭園は世界でも最高峰のウェルカムドリンクなんだと思った。

日本らしく、常軌を逸してるレベルの手間暇かかった至高のウェルカムドリンクだ。

静岡入りしたら、真っ先に「日本茶きみくら」に行きたいところだ。

抹茶づくしのあんみつも素晴らしかった!

ひなびしゃれた温泉、「ならここの湯」

まずはウェルカムドリンクで整い、森の都の展覧会場に着く頃には仕上がった状態になるべく掛川市北部、原泉地区中央部の「ならここの湯」に向かった。

仕上げるなら、ここの湯だ。

榛村(しんむら)元掛川市長さんのお言葉をお借りすらならば「ならここの湯」は「ひなびしゃれた温泉」だそうだ。

掛川のレジェンド、榛村(しんむら)元掛川市長

榛村純一氏は、数々の先進的な取り組みをおこなった掛川のレジェンドだ。

1977年から28年間の在任中に、生涯学習都市・スローライフ・歩行文化・報徳文化都市宣言を行ない、市民募金30億円で新幹線掛川駅を建設したり、東名高速道路掛川インター開設、静岡富士山空港開設、その他多くの事業を地元にもたらした。

また国に対しては文部省へ「生涯学習制度」を奨励し、全国へ啓蒙し同時に地方分権を訴えて政権内に大きな影響を与えた。

また、榛村氏は地域学のすすめ(自らが住むまちの自然、地理、歴史、文化等を学び、そこで生まれ育ち生きてきた自らを肯定的に捉えることで、将来と次世代につなげていこうとする選択定住運動の一方策)を説き、全国生涯学習市町村協議会や全国地域づくり推進協議会、日本茶業中央会の会長なども務めた。

本業が林業なので、まちづくりにおいても木の文化を大切にして、JR東海道線掛川駅の木造駅舎を残したり(東京~大阪間の旧国鉄の駅で、掛川にしか木造駅舎は残っていない)、市内にある東海道53次の日坂宿に残る川坂屋という旅籠屋や茶室を復元したり(宿おこしは全国各地で行われているが、東海道では比較的珍しかったので、東海道400年祭の年には、特に人気を博した)、掛川城天守閣や大手門を市民募金10億円で木造本格復元した。

戦国武将、山内一豊(やまうちかずとよ)

掛川城を築城した山内一豊(やまうちかずとよ)は、「織田信長」「豊臣秀吉」「徳川家康」の3人に仕え、戦国時代を生き抜いた戦国武将だ。

山内一豊は、「尾張国」(現在の愛知県西部)で誕生。織田信長、豊臣秀吉に仕え、天下統一されたのち「掛川城」(かけがわじょう:静岡県掛川市)へと入城した。

「関ヶ原の戦い」では東軍に。そのときの功績によって「土佐国」(現在の高知県)9万8,000石へ移封となり、土佐藩初代藩主にまで上り詰めた。

掛川のレジェンドがいう「ひなびしゃれた温泉」、「森の都温泉ならここの湯」は、雄大な景色を眺めながらトロミのある源泉100パーセントの露天風呂が楽しめた。

館内は、「森の都」らしく、ふんだんに木材がふんだんに使われ、木の温もりが感じられるやすらぎの空間になっている。

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風呂上がりに近くの名物牧場、「柴田牧場」の新鮮な、しばちゃんちのジャージー牛乳が飲める!

今まで体験したことが無いようなアートイベント「原泉アートデイズ!」

こうして、本格的に仕上がったところで、いよいよ「原泉アートデイズ!」へ、出かけた。

↑元お茶工場に受付の1つがある。

「原泉アートデイズ!」は、原”泉”という地名の通り、泉が湧き出るのんびりとした自然豊かな里山の空き施設で、アーティストが滞在しながら作品をつくり、展示する独自のアーティスト・イン・レジデンスでおこなわれている。

参加しているアーティスト達は、近くの住民や農家の方々との繋がりで差し入れられる新鮮な食材を、このプロジェクトの代表、羽鳥さんが南米で学んだ多国籍料理などにして1日2食提供。みんなで一緒に食べるそうだ。

「今日は誰々さんの、あの畑の野菜だ」だとか話しながら。

アーティスト達は、そういうところからも地域と繋がり、仲間同士交流を深め、それぞれの作品展示場所などで寝泊まりしながら作品を生みだすそうだ。

これは楽しそうだし、スゴく美味しそう!

泉のもたらす自然の恵を体感しながら、アーティスト同士が家族のように一緒に食事をしながら、里山の人々とコミュニケーションをとりながら刺激を受け、展示場所に寝泊まりすることで、ガチで作品づくりに集中できるというアーティストにとって、最高の制作環境となりそうだ。

今回は、作品全てを見ることは出来なかったが、来年は是非「原泉アートデイズ!」の中央部にある「森の都温泉ならここの湯」隣にあるキャンプ場に滞在して、温泉に入りながら、アーティストや地元の人たちとの会話を楽しみ、泉のもたらす自然の恵を体感したいところだ!

その時、羽鳥さんたち「原泉アートデイズ!」の地元の新鮮な食材でつくられた多国籍料理「AIR MEALS」が食べられたなら最高だ!

最近は、従来の収集するという考え方の美術館から、芸術祭のような、一過性の芸術的な体験を共同でするという、共有型のアートが1つの流れにもなってきている。

所有型と共有型があり、ふたつは、そこに求められているのが違い、扱われる作品のタイプも違う。

マーケットで扱われている作品は、8割9割がオールドメディアといわれる絵画・彫刻・紙物だが、芸術祭のタイプがすごく広がったり、大型の現代美術館がたくさんできたことによって、60年代からあった、一般の人も楽しめる空間的な体験、作品を体感できる、いわゆるインスタレーションが、この2、30年増えてきて、共有型のシェアが高まってきている。

受付の横に、2018年から始まった「原泉アートデイズ!」に初回から参加し、毎年滞在制作を続けている野々上聡人(ののうえ・あきひと)さんが参加するアーティストグループ「作戦」の作品があった。

野々上さんの2019年「原泉アートデイズ!」の作品、「幻の可視化2」をもとにした作品は「第23回岡本太郎現代芸術賞」で最高位となる太郎賞を受賞した。

作品の裏に、その作品をつくったアーティストが、寝泊まりしている空間があるという展示に、初めて遭遇して衝撃を受けた! 周りも、生活感があった。

5年間、この山里、原泉に溶け込み作品制作生活を続けてきた野々上さんと、その仲間たちが到達した、共有型アートの最前線のような、濃密で一体化したアート空間にふれて、ネクストレベルのアート体験に誘われた気がした。

受付の奥、のどかな川の横の気持ちのいい道を少し歩いていくと、

滑り台付きのツリーハウスの展示場についた。

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ツリーハウスの中にも、作品の横にベットがあり生活感があった!

榛村、元掛川市長さんが「人生後半は木々に囲まれ生涯学習!」と唱えているが、こんなツリーハウスで、生涯学習しながら、なにか創作でもできたら最高だ!

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「森の都温泉ならここの湯」の裏山にある、この作品の周辺は里山の風景が楽しめる。
美術館の廊下もいいが、自然豊かな山道を歩いて、作品に辿り着くのがとても楽しい。
しかも源泉掛け流しの露天風呂の風呂上がりに!

掛川在住の同行者は、この展示会場手前の家の前にいた方に話し掛けたら、話の途中で知り合いだと気付き、久々の再会で話が盛り上がった。

ぶっちゃけトーク全開の、エネルギーに満ち満ちた、とても楽しいお姉様だった!

「原泉アートデイズ!」2023年度のテーマは「交流」。

創作プロセスを開示し、地域との交流、鑑賞者との交流などの可視化にチャレンジしたそうだ。

最後は偶然、地域の方とも交流できて果物も頂いたが、次回は、お土産持って行き、「今度は、あの元気なお姉様の家の近くの展示場は、どんな展示になるんだろう!?」なんて考えながら、お伺いしたいところだ!

地域の人やプロジェクトメンバーの仲間たちは、そろそろ大規模なパーティーの場も復活させるとのことなので、来年が待ち遠しい!

今年、見逃してしまった滞在中のアーティストのトークイベントも楽しみだ。

夜は掛川の異世界文化拠点「旅とカレーと音楽の店 JAN」へ

掛川滞在時、1日の締めに夜、行く店がある。

「旅とカレーと音楽の店 JAN」だ!

ここを初めて発見した夜、川沿いを散歩していて、その圧倒的な存在感が現れて、異世界に紛れ込んだのかと、衝撃を受けたものだ!

オーナーのJANさんは掛川で様々な音楽イベントを開催しつつ、おいしいスパイスカレーや、多国籍料理を提供している、とても気さくで話しやすい旅人だ!

JANさんは、地球を3周、旅した様々な経験から生きる楽しみについて、文化の匠として掛川の高校などで講演もしている。

この日は、限定のポークヴィンダルとレギュラーメニューのキーマのダブルに!

カレー大好きの筆者も大喜びのうまさだった!!

ここだけの確固たる独自の味を、しっかりと感じられる幸せのひと皿だ!!!

ポークヴィンダルは、トマトの酸味が巧みにスパイスの深みを引き立て、ポークの甘み、そしてうま味がさざなみのようにに溶け合い、かなり癖になる味だ。

キーマは、出汁が効いた柔らかい味で、ターメリックライスと混ざった時に、スパイスが心地よく広がるので、思わず、ご飯がモリモリすすむ。

そして、食後は掛川デイズ1日の総仕上げに、スパイスティーを必ずオーダーする。

スパイスティーは、ほかで何回か飲んだことがあって、いつも美味しいが、JANさんのスパイスティーは、食後に丁度いいバランスのスパイスと甘さが溶け合った、マイルドな刺激の「ホッと」する1杯だ。

この日は、このお店の雰囲気にぴったりの素晴らしいBie Suo(別所)・岡田コウメイ・Wataruの3人による民族的な音楽のライブを聴くことができた。

音楽にあわせ、知世(chiyo)氏によるライブペインティングもやっていて、癒しと希望が感じられる絵がとても素敵だった!

音楽家やアーティスト、お客さんや、お店のJAN &JUNさん、みんなとても感じのいい旅人で、会話も楽しかった! 毎晩行きたくなる理想の異世界音楽カレー酒場だった。

全国の本好きの間で有名な本屋さん、高久(たかく)書店へ

次の日、帰る前に、本好きの間で有名な本屋さん、高久(たかく)書店に立ち寄った。

高久書店は、本屋さんのない地区にワゴン車で移動しながら本を販売する「走る本屋さん 高久書店」として全国に名を馳せる。

「生涯の友達となる本」と出会える機会を増やしたいとの想いで、生涯学習宣言の町で、生涯にわたり読書に親しみ、温もりのある読書文化を活性化させる活動をされている。

店内には「高校生が選ぶ掛川文学賞」という棚があり、今年の受賞作が並んでいた。

激動の令和5年度、受賞作品は、70歳のおじいちゃん達が主人公の泣ける、ほっこりコメディ小説、「おかげで、死ぬのが楽しみになった」(著作:遠未真幸 発行:サンマーク出版)だ。

帯には「きみの未来に、幸せの次元装置を仕掛けておいた。」とある。

「高校生が選ぶ掛川文学賞」は掛川市内の4つの高校から、12名の高校生文学賞選考委員が掛川市立中央図書館に集まり、選考は多数決ではなく、数時間にわたる議論を重ねることで、受賞作を決定したそうだ。

来月には、受賞作家「遠未真幸」先生を招いて、高校生が主体となり「読書サミットin掛川」を開催する予定だ。

掛川の高校生に選ばれた「おかげで、死ぬのが楽しみになった」のキーワードには以下などがある!

「言葉の意味の深さで涙が。」

「すべての物語がエピソードやキーワードで関連し合っている。」

「久しぶりに一気に読んでしまいたくなる本と出逢った。」

「生涯学習宣言の町の本好きの高校生が選んだ本。」

「家族へのプレゼントにもおすすめ !」

「最後の最後に、このタイトルの意味がわかります。」

「”努力は報われるって、本当?”と思ったことがあるあなたにもおすすめです。」

出かけた町で、本を買って帰る

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高久書店で、「旅とカレーと音楽の店 JAN」のJANさんの冒険譚「宮古回帰」と「文芸高久書店」を買った! 右上はJANさんのお店で買える特製MIXスパイスだ!

高久書店による高久文庫の「宮古回帰」は、JANさんが掛川から旅へ出かけ、日本を放浪し、辿り着いた宮古島で、音楽と世界中を旅する人たちと出会うところから始まり、最後は「長い旅で見てきたもの、感じてきたもの、吸収してきたものをどれだけ故郷で活かせるのだろうか」と、お店をひらくまでの冒険譚だ! 

その旅を少し紹介すると、JANさんは世界を3周するなか、西アフリカ、マリのジャンベ(アフリカの太鼓)を相棒に、路上で歌い、朗読をして、カレーを研究する。

そのうち大阪で「吟遊詩人」というライブバーをオープンして、世界の民族音楽や、いろんなジャンルの音楽のライブをつくったりした。

15年住んでいた大阪を離れ故郷、掛川に帰る前に、今一度、自分の原点を見つめようと、はじまりの島、宮古島を訪れる。

宮古島で、15年前に出会った年配の旅人と再会し「世界中を旅してきて、それらをなにかで生かすことができたかね?」と聞かれJANさんは大阪での成果を語り、ジャンベを響かせ15年分の蓄積してきた思いをリズムと音に乗せ、アフリカでできた歌を歌った!

楽器や本だけでなく、大量のスパイスを持参し、一風変わった長期の旅をして、スパイスからカレーをつくっては、みんなに振る舞っていたJANさんは故郷、掛川で、隅々まで拘り抜いた異国情緒溢れる空間と、五感を刺激する遊び心満載の店をつくりあげた。

どこにもない、ここだけの店を 妻のJUNさんと2人で。

「文芸高久書店」は、年末年始にじっくりと読むつもりだ。

JAN &JUNさんの作品も掲載されている。

掛川スローライフデイズ!!

日本茶きみくらと庭園、森の都温泉ならここの湯、原泉アートデイズ!、旅とカレーと音楽の店 JAN、走る本屋さん 高久書店。

ひとつひとつが、信じられないくらい、味わい深かった。

「ゆっくり、ゆったり、心ゆたかに」を標榜するスローライフの掛川で、特別な深蒸し煎茶を飲み、庭園を見ながらティータイムを満喫して森の都の、ひなびしゃれた温泉に入り、湯上がりに木の温もりを感じながら牛乳を飲み泉が湧き出るのんびりとした、自然豊かな里山でアートにふれて夜は、おいしいスパイスカレーを食べながら音楽と気のいい人たちとの会話を楽しみ昼に、本屋に行って、本を買って帰る。

そんな、素晴らしき、掛川スローライフデイズだった!!

  • コトノハ編集部ではさまざまな地域やイベント等の魅力を伝える記事を、実際に訪ねて取材し掲載しています。
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