高橋龍太郎氏に聞く、「高橋龍太郎コレクション」とは何か
コトノハ
2024年8月3日(土)- 11月10日(日)まで開催された「日本現代美術私観:高橋龍太郎コレクション ひとりの精神科医が集めた日本の戦後」展は、1946年生まれのひとりのコレクターの目が捉えた現代日本の姿を、時代に対する批評精神あふれる作家115組の代表作とともに辿った、日本の現代美術の重要作品を総覧する、貴重な機会となった。
同展の開催期間中に行われたイベント「高橋龍太郎氏に聞く、「高橋龍太郎コレクション」とは何か」を取材した。
高橋氏は、1995年から2000年代前半にかけてのバブル崩壊後、東京都現代美術館が美術品を買い入れることができなかった時期に、奈良美智や会田誠といった作家の作品を積極的に収集し、その空白を埋めるようにコレクションを構築してきた。
高橋氏のコレクターとしての願いは、収集した作品が東京都現代美術館や東京国立近代美術館でコレクション展ができるような評価を受けるコレクションにしたいということだった。それが現実化したことは非常に幸せなことだ、と語った。
今回の展覧会は、1946年(日本国憲法施行の年)生まれの高橋氏自身の人生史と、日本の現代美術の歴史が交差する形で構成されている。全共闘運動に関わり、草間彌生との出会いを経て、自身の生き方を模索してきた軌跡を辿る展示だ。高橋氏は学生運動の真っただ中にいた際、吉本隆明の著作を愛読し、政治やアートへの姿勢を育んだ。
また、医師としてのキャリアとコレクター活動の間には密接な関係がある。診療所の待合室に飾る絵を購入したことがきっかけで、やがて500点を超えるコレクションを形成するまでに至った。サルトルの実存主義に影響を受け、実存が本質に先立つという考え方に共鳴し、コレクターになろうと思ったわけではなく、コレクションという実存が先行する事で結果としてコレクターになって徐々に形作られてきたと語る。
これまで開催された高橋コレクション展のなかで、2008年に全国7館で開催された展覧会「ネオテニージャパン 高橋龍太郎コレクション」は、日本の現代アートの独自性を提示するものであり、ネオテニー(幼形成熟)という概念を通して日本のアートシーンを読み解いた。人間は猿の胎児として猿になる手前に生み出されてしまったように、日本の現代アートも成熟する前段階で世界に投げ出され、常に未完成なまま成長を続けているという視点を示した。
高橋氏は、日本のアートが欧米の価値観に翻弄される現状に対して批判的であり、独自の文化を発信する必要性を強調している。それは欧米に対抗するという意味ではなく、日本固有の視点やアジアの感性を世界に届けることで、新たな共感を生むことを目指している。
これからのコレクション展開についても、欧米の居丈高なアートシーンに対抗し、貧しく若く無名な作家たちの作品を集め、それを世界に届けることで新しい価値観を提示したいという意欲を見せている。こうした姿勢は、弱者や敗者に寄り添いながら、人間らしく生きるための支えとなるアートを追求する高橋氏の哲学を象徴している。
高橋氏にとってアートとは、単なる作品やコレクションの対象ではなく、人間の内面に深く作用する存在である。アートは時に人を癒やし、時に挑発しながら、人間の可能性を広げるものだと考えている。また、60年代に映像作家を志すも挫折し、医学部に戻った経験から、成功者ではないという意識を持つ高橋氏にとって、アートは人生の支えであり、アーティストを受け入れる心を育む存在であったと語る。
今後もその理念を根底に据えながら現代美術のコレクション活動を続けていくのだろう。
撮影:今井康一
©Koichi Imai
高橋龍太郎氏に聞く、「高橋龍太郎コレクション」とは何か
10月14日(月・祝)14:00-15:30(開場13:30-)東京都現代美術館
モデレーター 藪前知子(東京都現代美術館 学芸員)
展覧会情報
「川端龍子+高橋龍太郎コレクション ファンタジーの力」(大田区龍子記念館)
2024年12月7日(土)ー2025年3月2日(日)